仙台高等裁判所 昭和46年(行コ)7号 判決 1974年7月31日
控訴人
猪苗代町議会
右代表者・議長
佐藤光信
右訴訟代理人
冨岡秀夫
被控訴人
中川新平
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠関係は、次に記載するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する(但し、原判決三枚目裏八行目に「第九号証」とあるのを「第七号証」と訂正する。)。
(被控訴人の主張)
第一、本案前の主張
(一) 本件の原判決正本は昭和四六年六月二九日控訴人に送達されたものであるところ、控訴人議会代表者津金春雄は本件控訴の提起について控訴人議会の議決を経ることなく、本件控訴の提起を弁護士冨岡秀夫に委任し、同年七月六日本件控訴が提起されるに至つた。よつて本件控訴は不適法である。
(二) 控訴人主張第一の事実中、別件である福島地方裁判所昭和四四年(行ウ)第二三号事件の控訴の提起について控訴人議会の決議のあつたことは認めるが、その余の事実は否認する。
(三) 控訴を提起するについての決議は、一件ごとに事件を特定してなすことを要するものであり、しかも本件につきまだ第一審判決がなされないうちに控訴人との間の別件につき控訴提起の議決があつたからといつて、本件について議決を経たことにはならない。
(四) 控訴人主張のように控訴人議会が本件控訴の取下の議案を否決したとしても、それは本件控訴の提起について可決したことにはならないから、本件控訴は依然として不適法である。また本件控訴提起被控訴人議会がこれを追認する旨の議決をしても、本件控訴は違法となるものではない。
第二、本案についての主張《省略》
(控訴人の主張)
第一、本案前の主張
一、被控訴人の本案前の主張を否認する。
二、本件控訴の提起について原判決言渡後控訴提起前に本件を特定して控訴人議会の議決を経たことはないが、
(一) 本件につき第一審において被告として応訴するについて控訴人議会の議決を経ているから、本件控訴の提起について改めて議決を経ることを要しない。
(二) 控訴人議会は、昭和四四年一一月二七日の臨時町議会において、別件である本件当事者間の福島地方裁判所昭和四四年(行ウ)第二三号議事録閲覧等不作為処分違法確認事件に関する控訴の提起について議決した際、被控訴人が控訴人を相手方として提起した議会会議録の謄抄本交付、閲覧等請求事件のすべてについて上訴する旨の議決をした。従つて、本件事件番号は特定してはいないけれども、本件控訴の提起については既に前同日議会の議決を経たものである。
(三) さらに控訴人議会は、本件控訴提起後である昭和四六年八月二七日開催の臨時町議会において、本件に関する「議会会議録交付請求事件の判決にともなう上告の取下げ」と題する議案を否決した。これは右議会において前項の議決を再確認したものであつて、実質上本件控訴の提起について議決を与えたことになる。
よつて、被控訴人の本案前の主張は理由がない。
第二、本案の主張《省略》
(証拠関係)《省略》
理由
一本案前の主張について
(一) 地方自治法一二三条によれば、地方公共団体の議会の会議録の調製は議長の職責とされているが、右会議録の調製はもとより、右会議録の保管、閲覧、謄抄本の交付に関する事項はすべて本来議決機関である議会固有の事務であつて、議長は議会の事務の統轄者としてこれを処理する責任と権限を有するに過ぎないものである。従つて、本件の如き会議録の抄本交付請求許否の処分は、本来議会の権限に属する事項であり、その処分庁は議長ではなく、議会そのものと解すべきである。
そして右処分は、その性質上公権力の行使にあたる行為であり、かつ、住民の権利義務に影響を及ぼすものであるから、議会によつてなされる一種の行政処分とみることができ、その処分の取消を求める訴は行政事件訴訟法三条の抗告訴訟に属するものというべく、右訴については抗告訴訟に関する行政庁の当事者能力および被告適格を類推してこれを肯定するのが相当である。
この場合、右訴においては議会の代表者たる議長が訴訟を追行することとなるが、地方公共団体の議会は、独立の法人格を有せず、いわゆる機関に過ぎないものであり、しかも合議体であるから、法人、社団等の通常の法人の場合と異なり、議会の権限に属する重要な法律行為を行うについては、議会の意思(機関意思)を決定するためその都度議会の議決を必要とするものというべく、議会自身を当事者とする訴の提起、上訴の提起は右にいう重要な法律行為にあたるものと解すべきである。
(二) 本件記録によると、原判決の正本は昭和四六年六月二九日控訴人に送達されたものであるところ、控訴人議会代表者津金春雄は本件控訴の提起を弁護士冨岡秀夫に委任し、同年七月六日本件控訴が提起されたことが認められ、本件控訴提起にあたり本件を特定して控訴人議会の議決を経たことのないことは、当事者間に争いのないところである。
(三) 控訴人は、第一審において被告として応訴するにつき控訴人議会の議決を経ている旨主張し、当審証人津金春雄の証言中には右に符合する部分が存在するけれども、本件においては右事実を証するに足る書面が存在しないのみならず、右証言は成立に争いのない乙第七号証に記載された討論の経過、内容に照らして措信できないものであり、他に右主張にかかる事実を肯認するに足る証拠はないから、右主張は採用の限りでない。
(四) ところで、<証拠>によると、控訴人議会は、本件控訴提起後である昭和四六年八月二七日開催の臨時町議会において、本件控訴の取下に関する議案を否決するとともに、右提起にかかる本件控訴を維持する旨の議決をしたことが認められる。右によれば、本件控訴の提起について、事前に控訴人議会の議決を経ていないけれども、事後に控訴人議会は右控訴の提起を追認したものというべく、民訴法五四条、八七条の趣旨に準じ、右追認により本件控訴の提起は、右提起の時に遡つて有効となつたものというべきである。
(五) よつて、その余の点について判断するまでもなく、本件控訴の提起は適法というべく、従つて被控訴人の本案前の主張は排斥を免れない。
二本案について《以下、省略》
(佐藤幸太郎 田坂友男 佐々木泉)